ポスター画像出典:『Amazon』
レビュー
元国連職員マイケル・スーサンが自身の体験をもとに執筆した小説「Backstabbing for Beginners」の映画化で、国連史上最悪の政治スキャンダルとされる、困窮するイラク国民を救うはずの夢の人道支援プログラム「石油食料交換プログラム」の裏で行われていた不正を描いた作品。アマプラで無料で観れるから、また、テオジェームズがそこまで有名な俳優じゃないということで完全に舐めていたが、これはとてつもなく莫大な人生のヒントが隠された映画だった。
この「石油食料交換プログラム」というのは1996年から開始され、2003年末頃終了した7年間累計で輸出640億ドル(当時の為替レートで7兆3600億円)輸入370億ドル(4兆2250億円)に至った交換プログラムである。このプログラムは、イラクが軍隊を再構築することなく、食品・医薬品その他のイラク市民にとって人道的に必要な物資と交換に、イラクが石油を輸出できるようにすることが目的であった。イラクの混沌を抑え、軍備ではなくもっと国民に直接利益があることにお金を使い、平和を作り上げる。そういう目的で用意されたお金が不正に扱われたのだ。
まず、このプログラムが終了してから、プログラムの資金に関する18億ドル(約2000億円)を超える汚職が明らかになった。更に、アメリカ合衆国政府会計局(GAO)による調査では、汚職の一部(フセイン大統領の取り分)だけでも推定101億ドルと、1兆円を超える汚職であった可能性が指摘されるも、国連は調査協力を拒否した為に全容不明である。
この話の何が教訓性が高いかというと、『エネルギーの集約』である。エネルギーを一つに集めて、そこから利益を得る。これが人間の人生にとっては非常に重要な要素となる。例えば、株式会社である。会社を上場させれば株を買ってもらいやすくなり、そうなると資金が集められる。資金が大量にあればビジネスを有利に始められる。そのビジネスで大きなシェアを確保すれば、その市場から利益を得られる。中途半端にやると、自分たちより大きなエネルギーを持った会社に飲み込まれたり、勝てない。

戦争も同じことである。銃が浸透する前、人々は剣や刀、弓矢等で戦っていた。だが、日本において大体明治維新あたりの時期にガトリング砲のようなものが登場。面白いことに、この時期を描いた映画にガトリング砲が登場するシーンが多い。すぐに、マシンガンや機銃を備えた軍艦、戦闘機や爆撃機が発明される。核爆弾はどうだ。ライト兄弟やアインシュタインら天才発明家や科学者の力が乱用された形になるが、あのノーベル賞のノーベルも、ダイナマイトの発明が乱用されたことで、自分の人生を呪ったという。
そのように集約され、あるいは膨張したり充填されたエネルギーは、自分たちより弱いエネルギーの人々を制圧するだけの力を持つ。それが達成されれば、そこで生み出されるエネルギーが自分たちのものになる。海産物、農産物、科学技術に、それらを生み出す工場や人材。かつて、フランスとイギリスが筆頭として世界に自国の植民地をいくつも従え、宗主国としてお金(エネルギー)を集め、繁栄したように、また、水面下で黒人を筆頭として奴隷(エネルギー)を集め、それを越権的に私用し、繁栄したように。この世界では、エネルギーをどれだけ集められるかということが大きなカギを握っているのだ。
この、『イラクを何とかして平和にしよう』として国連が集めたお金『約4兆~7兆円』は、国連史上最悪の政治スキャンダルと言われるだけあって、莫大な金額(エネルギー)である。そのうち、2000億円が乱用されたとか、フセインが1兆円も横領していたとか、そういう『誰の目にも悪徳で稚拙』と映る悪行はさておき、最も我々が目を向けるべきなのは、『これだけのエネルギーが集まった』という事実なのだ。

『ドラゴンボール』の元気玉は、孫悟空が筋斗雲に乗れるように、彼が純粋だからこそ成立する。つまり、集めた膨大なエネルギーを私的に乱用しないのだ。すべて、たった一つの目的の為に使われる。エネルギーを少しずつ集めた者は、そのエネルギーを約束通りの対象に使わなければならない。このバグダッドスキャンダルでは、それが行われなかったことが原因となった。
では、我々はどのようにエネルギーを集めるべきか。このことについては、学生時代すべてをつかって考えてもいいくらい、人生にとって重要なテーマだと言えるだろう。
補足分析(構造限定)
認知・心理構造
・「善意で設計された制度」が、運用主体の裁量によって容易に反転する認知の盲点
・巨額資金(エネルギー)が可視化された瞬間に、倫理判断が希薄化する心理
・組織内部における「自分一人が正しても無意味」という責任分散の感覚
倫理・価値観の揺れ
・人道支援という大義と、現実の利権・私益との乖離
・「救済のため」という言語が、不正の隠蔽装置として機能する逆転
・制度倫理と個人倫理が一致しない局面で生じる価値の空洞化
社会構造・制度背景
・国連という超国家的組織における監視不全と権限集中
・制裁下経済・資源(石油)・通貨という三点が交差する特殊構造
・透明性を前提としない巨大制度が、内部腐敗を自己増殖させる力学
言葉・定義・前提破壊
・「人道」「支援」「平和」という語が、免罪符として機能する前提の破壊
・制度設計上の理想語と、現場で使われる実務語の意味乖離
・善悪二元論では把握できない、グレーゾーンの常態化
現実対応構造
・映画内構造は、現代の国際援助・巨大基金・多国籍組織と同型
・エネルギー(資金・資源・権限)の集中が、必然的に腐敗リスクを孕む構造
・個人の良心が、制度的慣性に呑み込まれる過程の可視化
論点抽出(問い)
- (問い1)善意で集められたエネルギーは、誰が管理すべきなのか
- (問い2)巨大制度において、責任はどこで消失するのか
- (問い3)透明性は、どの段階で失われるのか
- (問い4)人道という言葉は、どこまで制度を正当化できるのか
- (問い5)内部告発は、制度内で成立しうるのか
人間理解ポイント
・人は「正しい目的」があると、不正を見過ごしやすくなる
・巨額資源の前では、倫理は抽象化されやすい
・組織は、善意よりも構造に忠実に動く
・責任が分散すると、罪悪感も分散する
抽象コア命題(普遍層)
- 命題1:(エネルギーの集中は、倫理の希薄化を招く)
- 命題2:(善意の制度ほど、監視を必要とする)
- 命題3:(構造は、個人の善悪を容易に上書きする)
誤認リスク補足
・本作を「特定組織批判」や「陰謀論」として読むのは誤り
・個人の悪徳に還元すると、制度構造が不可視化される
・善悪の断定で読むと、エネルギー集約の本質を見失う
【テンプレ追記|解釈レイヤー固定文(共通)】
※本テンプレにおける補足分析は、筆者の主張・結論・立場表明を示すものではない。
※各作品は、筆者が内在させている「真理からの距離に対する違和感」や思考過程が、どのように照射・再確認されたかという構造的契機として扱われる。
※したがって、未来予測・価値判断・断言的結論として読むことは想定されていない。


































