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『あまくない砂糖の話』 レビュー(感想)

ポスター画像出典:『Amazon

目次

レビュー

ドキュメンタリー映画で、「砂糖を摂取し続けると人体にどのような影響を及ぼすのか」という、『スーパーサイズ・ミー』の砂糖版のようなものである。だが今回の場合はその2倍の期間、60日間のチャレンジだ。


これは人間全員が見るべき映画かもしれない。単純に、参考になるからだ。勉強になる。そういう意味で観ておいた方がいいということだ。学校あたりで観てもいいだろう。これが事実ということが前提だが、どう見てもあまり『事実を偽っている』ようには見えない。それをやるメリットよりも、やって得られるメリットの方が遥かに大きいからだ。


この映画を観れば、牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役だった男性(解任)が2022年4月、早稲田大学の社会人向け講座で「生娘(きむすめ)をシャブ(薬物)漬け戦略」と発言したことの意味が見えてくる。


その発言自体は何のセンスも常識も道徳観も倫理感もない低俗なものだったが、彼がそう発言したくなる理由は、この映画を観れば分かってしまうのである。


だから恐らく10代のまだ未熟な頃の私なら、『え?シャブ漬けであってるやん』などと思ってしまったかもしれない。視野が狭く、井の中の蛙で大海を知らないからだ。井戸の中の話なら確かに、我々人間は企業の戦略通り、シャブ漬け状態になってしまっているのである。


例えばあるジュースを飲み続けることが習慣のエリアがある。そこでは、子供のころから家族ぐるみでそのジュースを飲む。だが、成人する前には、歯のほとんどが虫歯でやられている。それでもそのジュースをやめられない。そういう事実を客観視した場合、『え?シャブ漬けであってるやん』と思うことだろう。


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我々人間が気づいたら手を伸ばしてしまっている『企業が提供する食品』がある。なんせ、『それしか売っていない』のだ。『皆もそれを食べている』。それを今日も明日も買う理由は、ごまんと存在しているのだ。


ここに気が付ける人間は、稀有である。ほとんどいないと言っていい。だから、むしろ気が付かない方がいいくらいだ。そうじゃないと周囲から浮いてしまって、変人扱いされる。それくらいこれらの現実は、人間の世界に根深く浸透している。


したがって、教訓性が高く、普段の日常生活では目を向けることがないことにあえて目を向ける『学校』の教育として、こうした真実を教えることには意義があると言えるのである。


オーストラリアの先住民であるアボリジニは、病気知らずだった。だが、砂糖を摂るようになってから、病気を発症するようになった。この話も相当教訓性が高い話である。この記事に書いたように、だが、インペリアル・カレッジ・ロンドンで生物学の学士号と修士号を取得したのち、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン動物学協会で進化生物学の博士号を取得したアランナ・コリンが2016年に書いた『あなたの身体は9割が細菌』にはこうある。


しかしながら、いちばん近い道路まで数十キロメートルあるパプアニューギニアの高地や、インドネシアのスラウェシにあるシージプシー・ビレッジ(漂流民の村)で暮らす人にニキビはない。10代の若者にもない。オーストラリアやヨーロッパ、アメリカ、日本では、みんなニキビになっているというのに。

(中略)

花粉症と同じく、私たちはニキビを日常生活の一部とみなしがちだ。とくに10代後半のニキビはそうだ。けれども、なぜ未開地の人々にはニキビがないのだろう?


未開地の人々にはニキビがなく、アボリジニのような原始的な生活をしている人々も、病気知らずだった。また、イヌイットなどもそうだ。


下記の記事に書いたように、


カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族の1つイヌイットの人たちは肉ばかり食べる。朝昼晩と、肉、肉、肉。『科学でわかった正しい健康法』にはこうある。

肉しか食べないイヌイットは我々より健康である!

イヌイットに会ってみたい。数十年前からイヌイットの存在そのものが、健康業会をいら立たせてきた。北極圏の酷寒のなか、彼らはほぼ肉、魚、脂質しか摂取しないという食生活を送っている。野菜はゼロに近い。果物もゼロに近い。炭水化物もゼロに近い。1日のメニューはこんな感じ。

朝食 肉
昼食 肉
夕食 肉

だからこそ、現代の栄養学の世界ではイヌイットの存在が厄介な問題となっている。こんな食生活を送っているのに、イヌイットが健康だからだ。摂取するカロリーの約7割を脂質からえているにもかかわらず、複数の観察研究が、僕たちの心臓と比べて、イヌイットの心臓のほうが健康であることを示したのだ。


『肉ばかり食べていると成人病になり、寿命が短くなって早死にする』というのが王道の答えなのだ。しかし彼らは一日中肉ばかりを食べて、むしろ外国人よりも健康でいるのである。


原始的な生活をしている人々が、都会的な生き方をしている人間よりも遥かに健康体でいられている現実がある。これは一体どういうことなのか。人間は、進化したのか。それとも、退化したのか。そして、人間の人口増加はどこまで許容される?人間は、どうやってこの地球で生きていくことが求められている?これは、ディカプリオ製作の映画『THE11hour』と併せて観たい、人間の教科書の一つである。

補足分析(構造限定)

認知・心理構造
・甘味は「嗜好」ではなく「習慣」として固定化され、摂取の自覚が不可視化される構造
・快楽(甘味)と不安(健康リスク)が同時に存在しても、人は短期報酬を優先しやすい心理過程

倫理・価値観の揺れ
・自己決定(自由な選択)と、設計された環境(入手容易性・価格・広告)が衝突する局面
・「自己責任」と「構造的誘導」の境界が曖昧になり、責任配分が揺れる構造

社会構造・制度背景
・食品産業が、安価・大量・継続消費を前提に商品設計を行うことで、依存的消費が常態化する力学
・健康情報が断片化し、生活環境(流通・価格・学校教育)が行動を規定する構造

言葉・定義・前提破壊
・「嗜好」「ご褒美」「ちょっとだけ」という語が、摂取量の累積を見えにくくする装置として機能
・薬物比喩が、個人の意志ではなく「設計された依存」の構造を可視化する前提の転倒

現実対応構造
・映画内の構造は、現代の消費社会における依存設計(食品・情報・娯楽)と同型である


論点抽出(問い)

  • (問い1)自由な選択は、どの時点で「環境に誘導された選択」になるのか
  • (問い2)依存は、意志の弱さか設計の結果か
  • (問い3)健康の自己責任は、どこまで妥当なのか
  • (問い4)教育は、生活環境の構造に対してどこまで介入できるのか
  • (問い5)快楽と長期リスクのバランスは、どうすれば可視化できるのか

人間理解ポイント

・人は短期報酬を過大評価しやすい
・習慣は自覚より先に形成される
・環境は意思より強く行動を決める
・常態化した不調は「正常」と誤認される


抽象コア命題(普遍層)

  • 命題1:(依存は個人だけでなく環境によって生成される)
  • 命題2:(快楽の設計は、長期的な損失を不可視化する)
  • 命題3:(自己責任論は、構造的誘導を隠蔽し得る)

誤認リスク補足

・本作を「砂糖悪玉」の単純化で読むのは誤り
・個人の努力論に回収すると、流通・広告・価格の構造が消える
・科学的因果の断定と、生活環境の傾向提示を混同しやすい


【テンプレ追記|解釈レイヤー固定文(共通)】

※本テンプレにおける補足分析は、筆者の主張・結論・立場表明を示すものではない。
※各作品は、筆者が内在させている「真理からの距離に対する違和感」や思考過程が、どのように照射・再確認されたかという構造的契機として扱われる。
※したがって、未来予測・価値判断・断言的結論として読むことは想定されていない。


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