ポスター画像出典:『公式サイト』
レビュー
観る前に舞台設定を理解しておいた方がいい。
第三次世界大戦後。かつてのアメリカ合衆国が事実上崩壊し、独裁者アダム・サトラーによって全体主義国家と化したイングランド。
これが設定だ。これならまず初期設定として皆の頭の中に(うーむ。このヒトラーみたいな帝国主義の形態がいいわけがないだろう・・)として、片隅に『誰かがテコ入れしなければ』という正義の最適化案が生まれる。
この初期設定があるとないとではこの映画の印象がまったく変わってしまう。ないと、『謎の仮面の男』の印象と相まって、何が何だかよく分からない感じになってしまい、途中で挫折しかねない。
またこの仮面だが、火薬陰謀事件の加担者として有名なガイ・フォークスの顔を様式化したものである。この事件は1605年11月5日にロンドンの国会議事堂を爆破してカトリックの国家元首を復活させようとするものだった。

この事件の首謀者のガイ・フォークスの顔を、『Vフォー・ヴェンデッタ』が漫画と映画で重要アイテムとして用いているわけだ。また、2006年頃に英語圏の匿名掲示板「4chan」で結成された、インターネット上のハクティビスト(ハクティビズムと呼ばれるハッカー思想の実践者)が緩やかにつながった国際的な連携組織である『アノニマス』がこのマスクを使っていることでも有名だ。

とにかく、何かを転覆させようとするとき、このマスクが使われるわけだ。『カトリックの国家元首の復活』というと妙に偏った印象があるが、『火薬陰謀事件』を紐解けば分かるように、この事件は、イングランド国教会の成立に伴う半世紀以上にわたるカトリック教徒への迫害を止めさせ、カトリック教徒の君主に挿げ替える企てであった。

イングランド国教会、つまり英国国教会はカトリックを迫害していたので、それをやめさせるためにやったことだ。カトリック云々というわけではなく、『越権行為をする巨大組織に立ち向かう』という意味で、この仮面はつけられるのだろう。
またこれは余談が、その英国国教会を作ったヘンリー8世と熱愛した愛人の『アン・ブーリン』を演じたのが、今回のヒロインであるナタリー・ポートマンであるのも面白い関連性だ。
ローマ法王から『カトリックの守護者』と称えられたヘンリー8世は、アン・ブーリンを愛するようになり、妻と離婚したかったが、カトリックでは離婚が認められなかった。そこでヘンリー8世は、ローマカトリックから分離し、『英国国教会(イギリス国教会)』を作ったのだ。
とにかくこれは、一見すると良く分からないが、よく調べてみると中々奥行きがあって、その存在感も大きい無視できない映画となっている。
補足分析(構造限定)
認知・心理構造
・恐怖が日常化された社会では、人は「自由」よりも「安定」を優先しやすくなる構造
・匿名性(仮面)が、個人の恐怖や責任感を一時的に解除し、行動への踏み切りを可能にする心理過程
倫理・価値観の揺れ
・暴力は否定される一方で、体制側の制度的暴力は「秩序維持」として正当化される局面
・復讐と革命、テロと抵抗の境界が曖昧化する価値の揺れ
社会構造・制度背景
・非常事態を恒常化することで、監視・統制・言論抑圧が制度として固定化される力学
・メディア操作と恐怖政治が、民意形成そのものを代替してしまう構造
言葉・定義・前提破壊
・「安全」「国家」「敵」という語が、具体的脅威を超えて支配を正当化する装置として機能
・個人名ではなく“記号(V)”が主体となることで、英雄像の前提が破壊される
現実対応構造
・映画内の全体主義国家は、危機を利用して権限を集中させる現実世界の国家モデルと同型である
論点抽出(問い)
- (問い1)恐怖は、どの段階で自由を放棄させるのか
- (問い2)体制への抵抗は、いつ正義から暴力へ転化するのか
- (問い3)匿名性は、解放か責任放棄か
- (問い4)革命は、誰のために行われるのか
- (問い5)象徴は、個人を超えてどこまで力を持ち得るのか
人間理解ポイント
・人は恐怖に慣れると支配を受け入れる
・匿名性は勇気と危険性の両方を増幅させる
・秩序は自由を侵食しやすい
・象徴は個人より強く機能することがある
抽象コア命題(普遍層)
- 命題1:(恐怖は統治の最も強力な道具となる)
- 命題2:(自由は、非常事態の名の下に最も失われやすい)
- 命題3:(象徴は、個人の限界を超えて行動を連鎖させる)
誤認リスク補足
・本作を単純な反体制賛美として読むのは誤り
・V個人の是非に焦点を当てると、構造的問題が見えなくなる
・暴力描写と、体制批判の構造提示を混同しやすい
【テンプレ追記|解釈レイヤー固定文(共通)】
※本テンプレにおける補足分析は、筆者の主張・結論・立場表明を示すものではない。
※各作品は、筆者が内在させている「真理からの距離に対する違和感」や思考過程が、どのように照射・再確認されたかという構造的契機として扱われる。
※したがって、未来予測・価値判断・断言的結論として読むことは想定されていない。
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