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『クレイマー、クレイマー』 レビュー(感想)

ポスター画像出典:『Amazon.co.jp

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レビュー

タイトルの意味は彼らの名前だ。「クレイマー(原告)対クレイマー(被告)の裁判」意味で同じ名前の人が争っている裁判、つまり離婚裁判を題材にした物語ということになる。公開当時のアメリカは1979年で、アメリカ国内において離婚・親権問題が社会問題となっていた為、高い評価を得た作品となった。アメリカでは日本の想像以上に裁判が多いため、アメリカ映画には裁判ものの映画がたくさんあるという印象だ。


『人種のるつぼ』と言われるほど多民族が終結する移民国家でありながら、人種、LGBT、女性など、すべての人が平等に扱われているとは言えず、『自由』の名のもとに自分で立ち向かってアメリカンドリームを掴まなければならない。それがアメリカの特徴である。だから国民皆保険もなく、自己破産の原因No.1は医療費の未払いである。


それは『ジョンQ』などの映画で切実な問題として理解することができるが、しかし裏を返せば、銃や麻薬の使用を認めるほどの『自由』を主張していることは、その代償として払うべきものがあるということなのである。銃乱射事件が起きても、ドラッグで親が死んでも、麻薬や銃はなくならない。医療費未払いで破産者が出ても、使者が出ても、それが理由でガチガチに決められた国にはならない。それが『自由』を求めて作られた自由の国、アメリカ合衆国だ。


多くの裁判映画を観てきたが、そうすると『堅苦しい裁判』という表層の根底に、人々の『個人的な人生の権利の主張』というテーマが存在することが見えるようになる。元々大体の裁判の理由がそれを軸にするわけではあるが、『主張の国』アメリカでは日本のように『自己を押し殺し、人の為に尽くすことに喜びを見出す犠牲心たる愛』よりも『自己主張』を重きとする風潮があるわけだ。


エドマンド・バークは言った。


『東日本大震災』の時、被災者に物資はなく、違うところでも『買占め問題』が浮上したが、店が襲撃されるほどではなかった。その後、その『誇り高き民族』である日本人に対し、世界の人々が称賛。以下の動画は、スティービー・ワンダーが震災後の日本人に向けて送ったメッセージだ。



日本語訳も動画の概要欄にある。一部を紹介しよう。

日本の力と忍耐強さは、地震と津波の影響を乗り越えるということを私は信じています。本当に、日本人の方々の勇-気と品位には心を打たれます。今、世界中の人々が、祈りと希望、そして、夢を日本の方々に託しています。最も礼儀正しく、美しい-国の方々へ。 私は、あなた方と共にいます。あなた方を愛しているから。


こういうとき、人々が利己的になり、暴動が起こるのが世界の相場だ。しかし現代を生きる日本人はなかなかこういう恥ずかしい行動を取らない。北野武は震災に対する対応で世界中から日本が称賛されている中、空き巣に入った日本人のニュースを受け、



と生放送のニュースで言った。しかし、それに対する苦情は思ったよりなかった。むしろ、『よく言った』という声が多かったのだ。


ヘミングウェイは言った。


これが先ほど言った『自己を押し殺し、人の為に尽くすことに喜びを見出す犠牲心たる愛』の正体だ。別に日本を過大評価などしない。だが、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、儒教等の世界宗教の根幹にある教えの共通源から見出した真理には、『博愛』はあっても『エゴ寄りの自己主張の重要性』を説いたものはない。よって、神仏混交の地、この日本で独特に培われた武士道精神の一部に、偶然にも世界に誇る精神的な武器があったと言っていいのである。


アメリカは自由であり、しかしそれと同時に不自由である。このあたりの事情を踏まえてこの映画を観れば、『クレイマーたち』が取る行動の一部始終にある人間の心情が、浮き彫りになって見えてくるだろう。

補足分析(構造限定)

認知・心理構造
・親権は「愛情の量」で決まるという直感的前提が、制度判断と衝突する構造
・家庭内の役割分担が固定観念として内面化され、変化への適応が遅れる心理過程

倫理・価値観の揺れ
・親としての責任と個人としての自由が同時に要求され、単一の正解が成立しない局面
・「子どもの最善利益」という抽象原則が、具体的選択では分岐を生む構造

社会構造・制度背景
・離婚・親権を法廷で裁定する制度が、私的関係を公的言語へ翻訳する力学
・労働・家庭・性別役割を分離してきた社会制度が、個人の選択を制約する構造

言葉・定義・前提破壊
・「良い親」「適格性」といった語が、状況依存的に再定義される過程
・法的言語が感情や生活実態を切り分けて扱うことで生じる乖離

現実対応構造
・映画内構造は、家族問題を制度処理する現代社会全般と同型である


論点抽出(問い)

  • (問い1)親としての適格性は、何によって測定されるのか
  • (問い2)制度は、どこまで個人の感情を扱えるのか
  • (問い3)役割分担の変化は、どの段階で摩擦を生むのか
  • (問い4)「子どものため」という言葉は、誰の判断を正当化するのか
  • (問い5)法的決着は、関係性の問題を解決しているのか

人間理解ポイント

・人は役割を失ったときに自己像が揺らぐ
・責任は状況によって再定義される
・制度判断は感情を切り捨てやすい
・正しさは立場によって反転する


抽象コア命題(普遍層)

  • 命題1:(制度は関係性を整理するが、感情を解決しない)
  • 命題2:(役割の固定は、変化の局面で葛藤を生む)
  • 命題3:(最善という語は、常に複数の解釈を孕む)

誤認リスク補足

・本作を単純な父親肯定/母親否定の物語と読むのは誤り
・時代背景のみで評価すると、構造的論点が見えなくなる
・登場人物の選択と、制度が示す枠組みを混同しやすい


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