ポスター画像出典:『GYAO!』
レビュー
この作品と同時に同監督によるイラク戦争のドキュメンタリー映画『Soldier’s Pay』の再DVDリリースが予定されていたが、作品の政治性が高いことで、それは中止されたという。だが、この映画なら大丈夫だということだ。ドキュメンタリー映画と違ってエンタメ性を求められる映画でメッセージを伝えるためには、『ド派手なエンターテインメントの裏に存在する確かで危険な事実』という状態にしてパック詰めしなければならない。ユダヤ教の創始者を描いた『エクソダス神と王』も、当人たちから批判を受けた。何かを描くときは偏っていてはいけないのである。偏ると、もう一方の方向にいる人達が必ず批判してくる。その意見の相違での興奮が沸点を迎えた時に起こるのがテロや戦争である。
例えばキリスト教徒が9割のアメリカで、アメリカ人がイスラム教の創始者ムハンマドを『いじって』暴言を吐き、彼の尊厳を著しく侮辱する行為をyoutubeに上げると、イスラム過激派が激怒。現地にいたアメリカの要人が殺される事態に発展してしまった。この映画は監督が反戦意識の高い人間であることから、そのような事態が起きたわけだ。1990年頃にあった湾岸戦争。そして、DVDの時は2003年にあったイラク戦争に対する反戦行為として、この映画の再上映と、ドキュメンタリー映画のレンタルの動きがあったのである。
この映画の表面に浮かばせるエンタメ性はこうだ。捕虜から得た謎の地図をフセインの隠した金塊の在り処だという事を解読し、軍の指揮下を離れ、無断でそれを強奪することを計画し、実行する。こういう『お宝ゲット』の表層であれば、CMも打ちやすく幅広い人に訴求しやすい。ポップコーンとコーラを片手に、友人や恋人と上映ギリギリまで『映画以外の話』をヘラヘラ笑いながらするような人たちにも届くはずだ。
湾岸戦争は、オイルの安定の為に介入した?イラク戦争は、大量破壊兵器があると言ったけど本当はなかった?かつて、ベトナム戦争介入の端緒となった『トンキン湾事件』もアメリカの捏造だった。これがアメリカだ。だが逆に、彼らが死守して成り立つこの世界の近郊は、彼らが転落したのち、一体どうなってしまうのだろうか。
ヨーロッパの覇権の推移
紀元前7世紀の前半~紀元前609年。オリエントの統一王朝を成し遂げるが、アッシュル・バニパルの残虐性のせいで帝国が破綻する。
紀元前525年~紀元前330年。キュロス、カンビュセス2世、ダレイオス1世また統一し直し、インド北西部からギリシャの北東にまで勢力を伸ばす。
紀元前330~紀元前148年。フィリッポス2世がギリシャを、アレクサンドロスがペルシャを制圧。
紀元前27年~1453年5月29日(完全な崩壊)。カエサルが攻め、アウグストゥスが守る形で『ローマ帝国』が成立。
1200~1300年。チンギス・ハンが大モンゴルの皇帝となり、5代目フビライ・ハンの時にはアレクサンドロスよりも領土を拡大。
1453年5月29日~。かつてのローマ帝国は、『神聖ローマ帝国』と『ビザンツ帝国』の東西分裂をしていて弱体化していた。1453年5月29日、メフメト2世がビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを征服。
1571年、スペインは『レパントの海戦』であのビザンツ帝国を滅ぼしたオスマン帝国を破り、地中海の制海権を奪取(正確にはまだオスマン帝国に制海権があった)。更に、『ポルトガルの併合(1580年)』で『スペイン帝国』は最盛期を迎える。
1588年、『オランダ独立戦争』、『アルマダの海戦』に勝ったオランダは、急速な経済成長を遂げ、アムステルダムは世界の貿易・金融の中心地となり、スペインに代わって世界貿易をリードする『栄光の17世紀』を迎える。
1677年、1651年から続いた『英蘭戦争』の結果、覇権がオランダからイギリスに渡る。
そしてこの後だ。規模もヨーロッパから『世界』へと変え、まとめ方は『世界で強い勢力を持った国』とする。
17世紀のイギリス以降世界で強い勢力を持った国
1800年前後。ナポレオンがヨーロッパで暴れまわるが、イギリス・オランダ・プロイセンの連合軍に敗れ退位。
1830~1900年頃。ヴィクトリア女王の時代に『大英帝国』黄金期を迎える(パクス・ブリタニカ)。
1870年頃~1918年。ドイツ帝国率いる『三国同盟』とロシア率いる『三国協商』の『第一次世界大戦』が勃発。
1918~1938年頃。ナチス・ドイツが現れる前はまだこの連合国が力を持っていた。
1945年~。特にアメリカ・ソ連。『第二次世界大戦』に勝った連合国は、引き続き国際的な力を保持。
1990年頃~。ソ連が崩壊し、アメリカ一強(パクス・アメリカーナ)の時代へ。
次に来るのは『ロシア』と『中国』の可能性があるとも言われている。アメリカの国力に陰りが見え始め、それを好機と見たロシアを筆頭とした水面下で力を蓄えていた勢力は、台頭し始めるだろう。アメリカ一強(パクス・アメリカーナ)の時代が終わった時、世界はどう変わるのか。我々は、彼ら世界のトップがこうも躍起になってしがみつく地位の脆弱さを傍観しながら、次の未来を見る。いや、ほとんどの人はそうではなく、ただ現在を生きるだけにとどまっているだろう。
補足分析(構造限定)
認知・心理構造
・戦争の大義(解放・正義)が前提化される一方で、現場の混乱と利得追求が不可視化される構造
・「金塊」という単純目標が、複雑な政治状況を背景へ押しやり、観客の理解を誘導する心理作用
倫理・価値観の揺れ
・軍紀(命令遵守)と個人判断(逸脱行為)が衝突する局面
・救助・略奪・正義が同一行動の中で反転し得る価値の二重化
社会構造・制度背景
・湾岸戦争という国際政治の枠組みが、兵士の行動目的を曖昧にする構造
・情報統制・報道・世論が、戦争の意味づけを外側から規定する力学
言葉・定義・前提破壊
・「解放」「正義」「作戦」といった語が、利害と暴力の混在を覆い隠す装置として働く
・エンタメの形式が、政治的事実を伝達可能な形に変換する前提の転倒
現実対応構造
・映画内の構造は、戦争が道徳物語と利害ゲームの二層で進行する現実と同型である
論点抽出(問い)
- (問い1)戦争の大義は、どの段階で利得追求と結びつくのか
- (問い2)軍紀違反は、いつ英雄化され得るのか
- (問い3)救助と略奪の境界は、誰が決めるのか
- (問い4)エンタメは、政治的真実をどこまで運べるのか
- (問い5)正義の語は、どの条件で免罪符になるのか
人間理解ポイント
・人は単純な目標に引き寄せられ、複雑性を後回しにする
・大義は行為の意味づけを変える
・欲望は倫理判断を揺らす
・物語形式は現実の矛盾を包み込む
抽象コア命題(普遍層)
- 命題1:(大義は利害を隠すために利用され得る)
- 命題2:(戦争は正義と欲望が同居する場である)
- 命題3:(娯楽は危険な現実を伝える容器になり得る)
誤認リスク補足
・本作を単純な反戦映画/戦争賛美映画として読むのは誤り
・金塊プロットだけを追うと、政治構造が不可視化される
・監督の意図と、作品の構造提示を混同しやすい
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