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『NHKスペシャル 中国文明の謎』 レビュー(感想)

ポスター画像出典:『Unext

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レビュー

映画ではなくドキュメンタリー特集だが、これは中国の歴史を語る際に非常に重要な一コマを切り取っている。したがって、中国の歴史映画の先頭にこれを付け加えたいのである。言わば、映画の前に観るべき『あらすじ』だ。

よく『中華』と聞くだろう。これは一体何のことだと思うか。実はこれは『中夏』だった。そう。かねてから歴史の専門家さえも『幻の存在』としか言えなかった中国最初の国、『夏(か)』がここに組み込まれているのである。中国は現在、ハッキリしている『殷(いん)』が最初の国となっている。しかし司馬遷が編纂した歴史書『史記』には、


兎(う)が夏王朝を建国したものの、暴君であった17代桀王(けつおう)が人望を失ったため、湯王(とうおう)がこれを討伐して、殷王朝を建国した


という旨が記述されている。つまり『夏』は存在していた可能性が高いのだ。だが証拠がない。一体どっちが本当なのか。そこに切り込んだのがこの特集なのである。実際に中井貴一が中国に行き、詳細な調査結果を展開するストーリーテラーを務めている。


中国はバラバラの印象があるだろう。現在進行形ですら、台湾や香港やチベットなど、どこまでが中国か曖昧である。しかし、皆が『中華』として根底で繋がっている。だからこそこの『夏』の存在は、必ず証明したいのである。キーワードは『龍』だ。


殷、周、微

話は殷に繋がる。夏を滅ぼし、中国に君臨する。中国のこの時代には、『漢字』のもとになる『甲骨文字』が誕生した。亀の甲羅や動物の骨の表面に奇妙な文字が書かれているのが見つかり、この甲骨文字は発見されたのである。ここで亀の甲羅や動物の骨が使われているのは偶然ではなく、意味があったという。当時、それらを焼いて、ヒビ割れがどうなるかという結果を見て、政治を行っていたのだ。


漢字は、多様に広がる中国の文化を一つにまとめる役割も果たした。言語は分からない。だが、文字ならわかるということで、『中華』の精神同様、中華圏にある人々の根底を繋げているのである。また、殷の神は『人の頭を食べる』という恐ろしい発想から、当時の死体には首無しのものが多い。


そして時代は『周』へと移り変わる。当時あった『牧野の戦い』では、周(8つの部族連合)VS殷で、これは70万人VS70万人という想像を絶するものだった。殷は最後に逃げるような形で、周が中国の覇者となる。


ちなみにこのずっと後、1000年以上も後のことだが、金、元、清(満州族)などの異民族王朝が、漢字以外を普及させようとする。だが、清で『中国の歴代最高の名君』として語り継がれる康熙帝(こうきてい)が他民族国家中国の統一を考え、漢字を押した。そのことも手伝って、漢字というのは最も古く、意味のある文字としてこの世界に君臨し続けるのである。


そして時代は秦へと移り変わる。ここに登場するのが始皇帝だ。中国を初めて統一した男である。帝の神=北極星。そしてそれは自分であるということで、権威づけのためにこの世界に『皇帝』というワードを創造したのが、この始皇帝である。更に始皇帝は、中華発想を利用した。バラバラに広がる中国だが、『中夏』としてこのエリアの中央には『夏』がある。そのようにして、夏の権威を乱用し、自らを権威付けしたのである。

補足分析(構造限定)

認知・心理構造
・「最初の国家」という起点への執着が、歴史認識の正統性を左右する前提として機能する構造
・伝承と物証の乖離が、信仰・誇り・学術の間で緊張関係を生む心理過程

倫理・価値観の揺れ
・神話的正統性と考古学的実証主義が衝突する局面
・統一の物語が、多様性や暴力の過程を覆い隠す価値転換

社会構造・制度背景
・文字(漢字)が政治・宗教・文化を横断して統合装置として機能する構造
・王朝交代のたびに「正統の起源」が再解釈・再配置される力学

言葉・定義・前提破壊
・「中華」「皇帝」「天命」といった語が、歴史的事実以上の権威を帯びる装置として働く
・神話と歴史の境界が、政治的必要によって曖昧化される前提の転倒

現実対応構造
・番組内の構造は、国家が起源神話を通じて自己正当化を行う普遍的プロセスと同型である


論点抽出(問い)

  • (問い1)国家は、なぜ「最初の起源」を必要とするのか
  • (問い2)神話は、どの時点で歴史として扱われ始めるのか
  • (問い3)文字は、権力をどのように固定化するのか
  • (問い4)統一の物語は、何を不可視化しているのか
  • (問い5)考古学的証拠は、政治的語りから独立できるのか

人間理解ポイント

・人は起源を共有することで集団意識を強化する
・権威は物語と結びつくことで持続する
・文字は記録であると同時に支配の道具となる
・神話は否定されても再編されて残る


抽象コア命題(普遍層)

  • 命題1:(起源神話は、国家統合の中核装置である)
  • 命題2:(文字は文化をつなぐが、権力も固定する)
  • 命題3:(歴史は常に現在の都合から再解釈される)

誤認リスク補足

・本作を単なる中国史入門として読むのは誤り
・学術的決着のみを期待すると、思想的背景が見えなくなる
・神話=虚構、考古学=真実と短絡しやすい


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